1-2 競争曲線の基本型

このグラフの名前はいままでいくつか変遷してきました。
当初は名前なしでただの曲線。次は競争曲線。
競争という言葉に反感を持つ人がいましたので進化曲線に名称変更。ただ、進化曲線ではいかにも仰々しいと思っていました。
グーグルが提供するホームページアクセス解析ツール「Google
Analytics」をみていましたら、「戦略グラフ」という検索キーワードで私のホームページに訪問して下さる方が意外に多かったので「戦略グラフ」に名称変更。
・・・・・横浜経営セミナーの皆さまにお伺いしたところやはり「競争曲線」で行こうということになり「競争曲線」に名称を戻しました。
まだ最終的な名称は決まっていません。
ネーミングって難しいですね。

 

理論の構築の方法=論法には、「起→承→転→結」というように、順次理論を組み立てていき、最後に全体像が見えてくるという論法があります。
この論法は4段論法と言われるものですが、小説や落語などではよくこの論法が取られます。
最初から全体像=あらすじやオチを聞いてしまったら物語の面白味は半減してしまいます。
「起→承→転→結」というのは話を盛り上げるための論法で、物語を徐々に積み上げ、読者あるいは聞き手を物語に引き込んでおいてから、感動のラストシーンへと話を繋げていきます。「
序→破→急」という3段論法もこれに近いでしょう。

しかし、ビジネスではこの論法は使えない場合が多いようです。経営会議で「起→承→転→結」で話をしようものなら「結論から先に言え!!」ということになることは必定です。
経営者は短気です。「起→承→転→結」で連鎖倒産の報告をする場面を想定して見ましょう。
なお、合計の所要時間は60分としています。この論法に耐えられる経営者はまずいません。

最近アメリカが不況です(30分)
日本の輸出業者も大きな打撃を受けています(25分)
得意先のA社も輸出関連業者で、本日(手形の)不渡りを出しました(4分)
当社も今月末の手形を落とせませんので、来月早々不渡りを出します。
・・・連鎖倒産です・・・・誠に残念です(1分)
買収調査(デューデリジェンス:通称デューデリ)の報告書を「起→承→転→結」方式で仕上げますと、大ヒンシュクを買うことになります。
報告書には、まず、修正財務諸表や重要な問題点(結論)を簡潔に書き、続いて簡単な説明がなされます。
レポートの大部分を占める詳細な説明は最後に示されます。デューデリの結果報告会でも同様の順番でなされ、先の連鎖倒産の話のように、「起→承→転→結」で報告することなどあり得ません」。
部品を一つ一つ説明して、最後にこれらの部品が結合して全体像がみえてくる、などという論法はビジネスでは通用しないのかも知れません。
従って、ここでは、まず競争曲線の全体像を示してから、各論、つまり全体像の説明を行います。

 

まずは競争曲線の基本型を示します。


競争曲線の構成要素
1 競争曲線と戦略論の4つのアプローチ
競争曲線の基本型には「ポジショニング・アプローチ」「資源アプローチ」「ゲーム・アプローチ」「学習アプローチ」の基本要素がすべて入っています。

「ポジショニング・アプローチ」的要素
もともとこのグラフ自体が多軸のポジショニングマップです。「他社」は一社とは限らず複数社でもよく、業界一般でもかまいません。「内」と「外」との競争資源の違い、つまり自社のポジションを見ることができます。
「資源アプローチ」的要素
どの競争資源に希少性があり(競争曲線の右方に位置する)模倣困難(防衛線が築かれている)等といったことがわかります。
「ゲーム・アプローチ」的要素
他社にどのような攻撃を仕掛けられるか。他社からどのような攻撃を受けているか。当社が攻撃を仕掛けたとして他社からどのような攻撃が予想されるかを見ることができます。ある経営者は相当以前にはやった「軍事将棋」だといっていました。
「学習アプローチ」的要素
学習アプローチの学習は「資源をどのように蓄積するか」つまりどの競争資源をどのように高めるかについての学習なのですが、ただ漠然と企業の資源を眺めていたのでは効果的な学習はできません。「競争曲線」を描くと、どの競争資源を動かすかを特定すると、「どのように?」という問いが生じやすいのです。

後でふれるのですが、戦略論では水と油、宿敵同士の概念がこのグラフの中で統合されることになります。
ベンチマークとブルーオーシャン戦略が共存し、シュンペーター(ポジショニング・アプローチ)とリカルド(資源アプローチ)が同居しているのです。

 

2 SWOT分析
SWOT分析とは自社の「強み」「弱み」「機会」「脅威」の分析です。競争曲線ではSWOT分析をグラフ化しています。
競争曲線は、自社の点数の低い方からプロットしてきますので、グラフの左の自社の点数の低い領域が「自社の弱みの領域」、グラフ右の自社の点数が高い領域が「自社の強みの領域」となります。
「機会」と「脅威」は「未来の競争領域」として表現します。

 

3 変異ベクトル
基本型における青い矢印(実線)です。


 

4 その他
援軍
自社の競争資源間の影響を表します。自社の競争資源は単独で競争資源となっていることは稀で、他の競争資源と密接に絡み合っています。例えば、レストランでメニューの数を減らせばスピードが上がる。サイト・ユーザビリティが上がると知名度が上がるなどです。
援軍は「原因」と「症状」の関係としても捉えることができます。「原因」が改善されれば「症状」は自動的に改善されることになります。

 

防衛線
典型的には特許などで他社の模倣を防ぐなどです。なお、「見えない資産」は模倣できません。資源アプローチでは「模倣の困難性」と表現され、防衛線が重要視されています。
防衛線がうまく築かれていると、競争優位は永続します。

 

水平攻撃
自社の「強み」で競争相手の「強み」を攻撃するという、異なる競争資源間の攻撃です。攻撃対象が、相手の事業上の「強み」ですので、水平攻撃が出ると競争相手はしばらくの間何もできず、対応が遅れることになります。
従来の競争のルールを変えなければ水平攻撃は出ませんので、水平攻撃が出ることはあまりありません。
この攻撃を出すためには従来の方法にとらわれない「気付き」が必要です。

 

垂直攻撃
自社の「強み」で競争相手の「弱み」を攻撃するという、同一の競争資源における攻撃です。
通常想定されるのは、こちらの垂直攻撃でしょう。
有効な防衛線が築かれていれば、長期にわたって垂直攻撃を出し続けることができます。
逆に競争相手が有効な防衛線を築いていれば、長期にわたって垂直攻撃を受けることとなります。
水平攻撃、垂直攻撃の双方について言えることですが、自社の攻撃のみに意識を集中し過ぎないことです。
基本型を見るとわかるとおり、自社と他社を入れ替える(他社の点数の低い方からプロットしていく)と、他社からどのような攻撃を受けているか分かるのです。

 

未来からの攻撃
代替品や他産業からの攻撃、政府の規制強化や、災害、戦争、伝染病などによる経済機能のマヒなどの「予期せぬ出来事」で、数え上げたらきりがありません。
(たぶん無いとは思いますが)宇宙人からの攻撃であることもあり、防ぎきれないかも知れません。

 

補足
競争曲線の役割
1 フォーメーション表としての役割
サッカーやフットボールでは選手の配置はフォーメーション表で示されます。ミーティング室では、このフォーメーション表を使い、擬似的な試合を行います。
監督はフォーメーション表によって選手の配置、パスの出し方、動き方を思い描き、監督の思い(=戦略)を選手に伝えます。「相手がこう来たら、こいつにパスを出し、ここまでドリブルで行って、こいつがシュートする。こいつはこいつの動きを牽制する」・・・もし、フォーメーション表がなかったら、監督の思いを選手に伝えるのに相当時間がかかることでしょう。
競争曲線はいわばフットボールやサッカーのフォーメーション表に相当するもので、具体的な競争相手を想定して、競争資源をどのように動かすかを検討し、戦略のシミュレーションを行うのです。

 

2 ケースの統合
戦略論の本を開きますと数多くのケースが紹介されています。
しかしながら、文章で紹介されていますので、ケース間の違いや同じ点を説明するのにもやはり文章で・・・ということになります。
フラクタルの幾何学の考案者であすマンデンブロは、何でも図形を使って考える習慣があり、人にアイデアを説明するときにも図形を使用することが多いそうです。
目で見て直感的に理解できることは多いのですが、難しい数式が並ぶことを好む「正統派」数学者からは批判的に評価されてきたようです。
しかしながら、目で見て直感的に理解できることは多く、さまざまな図形を見比べて、似ていると思った瞬間に重要な結論が得られたというものもあると言われています。
マンデンブロは「極めて複雑になった現代社会では、ふたたび科学者には数式だけでなく視覚に訴える手法が必要になってくるはずだ」と考えているようですが、複雑化した戦略論についても視覚に訴える必要があります。(禁断の市場 ベノワ・B・マンデンブロ 東洋経済新報社 2008年6月 p10-11参照)
競争曲線という「同じ仕組み」で「異なるケース」を視覚化すると、何が似ていて何が似ていないのかを直感的に理解できるのです。
実際にケースを視覚化すると「似たような形」が出てきますので、「似たような形」ごとに章立てして見ていきます。

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戦略論の統合

競争曲線(ケースの統合)

第1章 競争曲線

第2章 安定の理論

第3章 新兵器の理論

第4章 改善・改良の理論

第5章 退化の理論

第6章 競争曲線を実際に使ってみる

経営マンダラ(マンダラチャート)

戦争の理論と企業間競争

その他