3-2 アマゾンに対する業界トップ紀伊国屋の対応

アマゾンが黒字になるのは2002年。
2004年から2015年までに売上を15倍にしています。
2000年ころアマゾンが成功するなんていうアナリストはいなかったのです。

 

2004年2月の1ヶ月間、日本経済新聞の「私の履歴書」で紀伊国屋の松原修氏が連載されました。連載中の「私の履歴書」にはアマゾンの話は全く出きません。

「履歴書」は新聞で連載された後、筆者へのインタビューが追加され書籍化されます。アマゾンの話は、連載が書籍化された「私の履歴書三つの出会い」で追加されたノンフィクション作家佐野眞一氏との対談の中でふれられています。
「アマゾンなんて成功するわけない」と完全にアマゾンをナメてかかっているのが見て取れます。

佐野氏がアマゾンに代表されるネット販売の将来について松原氏に水を向けると・・・・

アマゾンも成り立つようになったと言っていますが、大変だと思います。
ほかの商品ならともかく、本などは需要と供給のミスマッチになっています。注文はくるけれども、本を送るということになったら、平均単価はおそらく千円ぐらいのものでしょう。
うちなどは、専門書が多く、それでも千五百円に達しないぐらいですから大変ですよ。アマゾンは二万坪の倉庫などと豪語していますが、大きな倉庫を持たなければいけない。
出版社は自分のところの倉庫の延長だから、どんどん置きますよ。
しかし、今度は管理が大変です。
単品管理でシステムを持っていなければいけない。
それと、その中から抜き出して送る労働力も必要で、その意味では労働集約型の典型です。
(私の履歴書 三つの出会い 松原治著 日本経済新聞社 2004年9月 p131)

要するに、客単価が低く労働集約的な書店はネット販売には不向きであるということです。
2003年11月~2004年3月まで、アマゾンの物流センターにアルバイトとして潜り込んで、潜入ルポを書きあげた横田増生氏は、「平均単価」に致命的な間違いがあると指摘しています。
横田氏によると、アマゾンの顧客一人あたりの平均単価は松原氏の予想の3倍の3000千円に達していたのでした。
横田氏は・・・「私がセンターで働きだすころ、アマゾンの驚異的な成長に注目している人間はほとんど見当たらなかった」とも言っています(アマゾン・ドットコムの光と影
横田増生著 情報センター出版局 2005年4月 p4-5)。

業界トップの紀伊国屋の松原氏は素人ではありません。「私の履歴書
三つの出会い」の”帯”には「”出版会のドン”もの申す!」と書かれており、業界を知り尽くしたプロ中のプロです。
その松原氏はさらに・・・・

ネット販売が、日本などで主流になるのはなかなか難しいと思う。
私どもはいま五十二億円ぐらいですが、全体の売り上げが二千億円になった時にネットで二百億円売れるかどうかは疑問で、これは大変な仕事だと思います。
(私の履歴書 三つの出会い 松原治著 日本経済新聞社 2004年9月 p131)

と言葉を続けています。
注目すべき点は、紀伊国屋もインターネット販売を既に始めており、自社の販売データに基づいてネット販売の客単価を知り得たという点です。
自社の実際のデータに基づいて計算すれば、アマゾンなど採算が取れる訳がない、と過小評価するのも無理からぬことです。

また、このころ、アマゾンも売上を伸ばしていますが、紀伊国屋も堅調に売上を伸ばしています(1996年8月期に1070億円だった売上は2005年8月期に1206億円とピークに達し、その後なだらかに減少しています)。

業績が順調に推移しており、本のネット販売の先行きが暗いという『確かな証拠』を握っている紀伊国屋としては『アマゾンを無視する』というのが正解です。
ネット販売の成功はアマゾンの成功によって証明されるのですから・・・・・