4-2 誤ったベンチマーク批判・・・ベンチマークと差別化は同居できる

競争曲線を描くと、経営学者の常識に反して、ベンチマークと差別化が同居できることが視覚化できます。経営資源を分解して、どの経営資源にベンチマークを適用して、どの経営資源を差別化するかということが実際にできるのです。
模倣(ベンチマーク)+差別化は非常に強力な競争戦略になりえますよ(リバース・イノベーションや中国の著しい経済発展はこの原理に従っています)。

 

ここでは「優れたアイデアが既に存在しているのに、ゼロから新たに考え出す必要がありますか?」
(アイデアをいただいてしまえ!ダイヤモンド社 スチーブ・リブキン フレイザー・サイテル著 ルディー・和子訳 2003年3月
の帯より)・・・もちろんありません。
という当然の帰結からベンチマークを中心に模倣について述べていきます。以下は神様、あるいは神様に近い方々の言葉です。

「新商品やビジネスの新しいやり方が異常なくらいたくさん発表されているにもかかわらず、新しいといわれるものの大半は模倣です」 マーケティングの導師であるハ―バード大学のレビット教授
(アイデアをいただいてしまえ!ダイヤモンド社 スチーブ・リブキン フレイザー・サイテル著 ルディー・和子訳 2003年3月 pⅰ)「誰かほかの人が用いて成功した目新しくて興味深いアイデア、そういうアイデアを探すことを習慣としなさい。あなたのアイデアは今あなたが実際にかかえている問題への応用においてオリジナルで独創的であればよいのです」 発明の神様トーマスエジソン
(アイデアをいただいてしまえ!ダイヤモンド社 スチーブ・リブキン フレイザー・サイテル著 ルディー・和子訳 2003年3月 pⅱ~ⅲ)「先んずる者は最後となり、遅れたる者は第1位となる」 本当の神様の言葉 マタイ伝19-30
(創造的模倣戦略 S.P.シュナース著 恩蔵直人他訳 有斐閣1996年9月 p390)「うちにはソニーという研究所が東京にありましてな・・・・」経営の神様・松下幸之助(盛田氏に言ったとされる冗談)
(先発優位・後発優位の競争戦略 山田英夫 遠藤真著 生産性出版 1998年6月 p43)
常識的な見解ではベンチマークに対する批判の嵐となっているのですが、神様は意外にもベンチマークに好意的のようです。
そして、常識的な見解ではベンチマークとイノベーションは同居しないのですが、神様はベンチマークとイノベーションは同居すると言っています(少なくともエジソン)。

誤ったベンチマーク批判
戦略の醍醐味が他社との差別化にあるのは確かでしょう。
ライバルと明確な差異を打ち立てライバルを引き離せば衆目を集め称賛されます。ベンチマークのように人の後をついていくようなやり方よりも、フロンティアを切り開く方がロマンに溢れているに決まっています。
ベンチマークに批判が集まるのは戦略に対するこのよう暗黙の共通認識があるからかもしれません。

しかしながら競争曲線を描いてみると差別化とベンチマークとが同居できることがわかります。
差別化やコア・コンピタンスの理論が当てはまるのは競争曲線の右方の「自社の強みの領域」であるのに対して、ベンチマークが当てはまるのは基本的には競争曲線の左方の「自社の弱みの領域」なのです。

第一自社が優れていると思われる領域では他社をベンチマークする動機に欠けます。
下手にベンチマークなどすれば現在の優位性を壊し、自分の手で自分の首を絞めることにもなりかねません。
これに対してベンチマークは「自社の弱みの領域」における戦略理論です。ある競争資源について、他社から有効な垂直攻撃を受けており、その垂直攻撃を無効にするためにベンチマークするのです。

競争曲線を見てもわかるとおり、研究者の予想に反し、ベンチマークと差別化では領域が異なるため、両者を同時に実行できるのです。領域が異なるため(競争資源が異なるため)戦略的矛盾は生じません。

ベンチマークをあみ出したのはゼロックスですが、ゼロックスが危機的状況に陥ったときにベンチマークをあみ出しているのです。
ゼロックス社のコピー機の米国でのシェアは、1970年から76年の間には95%から80%と、まさに圧倒的であった。だが、わずか6年後の1982年には13%にまで落ち込んでしまったのである。ゼロックス社が高級機の販売に注力している間に、キヤノン、リコー等の日本企業が安価な普及機の輸出を急激に伸ばして米国市場になだれ込んできたのが、その大きな理由であった。
そこでゼロックス社は、ベンチマーキングという新たな経営手法を取り入れて他の業界のベストなやり方を学んで、自分たちの内部プロセスを抜本的に改善・改革した。その結果、1989年にシェアは46%にまで回複し、エクセレント・カンパニーに贈られる、第2回マルコム・ボルドリッジ国家品質賞を受賞したのである。
(ベンチマーキング入門 髙梨智弘著 生産性出版部 2006年5月 p7)
一体誰がシェアが95%もある米国最強のゼロックスにベンチマークの必要性を感じろというのでしょうか?
逆にシェアが13%までにも――ナイアガラの滝のように――それこそまっ逆さまに落ち込んでいくゼロックスに誰がベンチマークなどは意味がないといえるのでしょうか?

ゼロックスは日本の富士ゼロックスから早期警告を受けていました。ゼロックスは1979年に富士ゼロックスなどを調査したところ調査結果に衝撃を受けました。
日本の複写機の製造コストは自社の半分であり、開発計画の期間は半分で、開発チームの人員も半分だったのだ。また、日本の複写機の品質ははるかに優れていた。組み立てライン上の欠陥部品の数から判断すると、日本の製品は、アメリカにおけるゼロックス社の成績よりも10~30倍も優れていたのである。
(Made in America MIT産業生産性委員会 依田直也訳 草思社 1990年3月 p372~373)
ゼロックスのベンチマークはMITの調査結果である「Made in America」で称賛され、1990年代のアメリカ経済再生へとつながっていくのです。

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