6-1 競争曲線の作成法

 

私たちが買い物をするとき、どのような基準で製品(やサービス)を選んでいるでしょうか?
実際に買い物する場面を思い浮かべて下さい。
価格に見合った機能や品質で選んでいるはずです。
この私たちが「選ぶ」という行為が、企業に競争を強要します。
顧客に選択される企業は繁栄し、顧客の足が遠のけば現在どんな大企業であっても確実に衰退していきます。
企業間競争は第一義的には顧客の選択をめぐる競争です。

企業が複数あり、どの企業の製品サービスを選択するかの選択権が顧客にあれば、企業が意図するか意図しないかに関わらず、企業間の競争が「自動的」に始まります。

市場が独占状態、つまりその市場に存在する企業が1社のみであれば、顧客にはその企業を選択するしか道はなく競争もありません。
ただしこの場合にも、顧客に選択権が与えられていれば、代替品の脅威から逃れることはできません。

競争そのものが選択をめぐる競争ですので、顧客がどのような基準によって自社を選択しているのかを知るということが、企業間競争を制するカギとなります。
このカギのことをKFS(Key Factor for Success=事業を成功させるための要因)といい、戦略を立案する上で必ず押さえておかなければならないとされています。

教科書的には、その際によくとられる方法が、ベストプラクティス分析、つまり、どのような強みを持つ企業が成功し、それをどのように発揮しているかということを把握することとなっているのですが・・・・これがなかなか難しいのです。
そして、KFSが抽出されると、現段階での自社の実力を測ることができ、効果的な戦略目標を定めることができる、(経営用語の基礎知識 http://www.nri.co.jp/opinion/r_report/m_word/kfs.html 参照)・・・というのが戦略論の一般的な見方なのですが、それでは一体どうやって効果的にKFSを抽出するのでしょう?

しかも、私の場合、「KFS」と言うと「何ですか?それ?」と言われ、「ベストプラクティス」などと言おうものなら「分かりやすい日本語でお願いします」と非難されることもある経営者を主に指導しています。
戦略論の本など読んだことがない経営者にも拒絶反応がないような「やってみたら自然に(ベストプラクティス分析が)できていた」というものに仕上げなければなりませんでした。

「競争曲線の作成のための質問」に答えて頂くのに15分程度、グラフの作成に5分程度で、一応の分析が出来るようになっています。

分析の前に競争の構造を知っておく必要があります。顧客が選ぶのは「製品やサービス」つまり顧客が感じる価値「顧客価値」です。ラーメン屋で例えますと、大多数の人が「顧客価値」がない(=まずい)と感じるラーメン屋には客が入らないということです。
より多くの人が「顧客価値」があると感じるラーメン屋は流行りますので、競争は第一義的には「顧客価値」をめぐる競争です。

ただし「顧客価値」を創造するには能力が必要です。
ある人はラーメンにラー油と胡椒をたっぷり入れて、酢とニンニクがあったらそれも入れて、その店本来のラーメンの味をほとんど消して、自分の味(良く言えば四川風)にしてから食べます。
その方は喜多方ラーメンが好きで自宅でも作るのですが、やはりラー油と胡椒と酢とニンニクで四川風喜多方ラーメンに仕上げてから食べます。
その方に「顧客価値」のあるラーメンを作る能力があるでしょうか???
ちなみに、私の家内はどんなにおなかが空いていようと、私用に味付けしたラーメンには「絶対」に箸を付けません。

やはり「顧客価値」を創造するには何かしらの能力が必要です。しかし、ただ単に店主の「腕」だけではなく、奥さんとの絶妙な連係プレーでしたり、店主の人柄かもしれません。店主の健康に至っては、これはもう立派な競争資源です。
競争は第一義的には「顧客価値」ですが、これを築き維持するためには、直感や蓄積されたノウハウなど「顧客価値創造能力」も必要です。つまり、企業は「顧客価値」と「顧客価値創造能力」で競争していることになります。

 

 

さて、これから自社と競合他社の「顧客価値」と「顧客価値創造能力」について比較するのですが、比較するといっても具体的に何を比較したらよいのでしょう?
よくよく考えるとこれも結構難しいのです。

自社と他社を比較すると、事業領域や自社自身がよく見えてくるのですが、いきなり「自社と他社を比較して下さい」というと「一体何を比較したらよいのか見当もつかない」という答えが返ってきます。
「比較」という単語は思考停止ワードなのかも知れません。

そこで、次のような誰でも答えられるような簡単な質問を用意していました。質問は思いきり少なくしています。
英語も経営学用語も入っていません。今のところ、この質問に答えられなかった経営者はいません。
A4の紙一枚で回答者が回答を書き込めるように、十分な行間をつけて下さい。

顧客との関連に関する質問
①顧客が来た理由は何か

 

②顧客が来ない理由は何か

 

③顧客を維持できる理由は何か

 

④顧客が言っていた利点は何か

 

⑤顧客が言っていた不満は何か

 

同業他社との比較に関する質問
① 自社の優れているところは何か

 

② 同業他社の優れているところは何か

 

③ 自社の劣っているところは何か

 

④ 同業他社の劣っているところは何か

 

同じようなことを反面から聞いていたり、反復して聞いていますので、通常いくつかの答えはダブりますが、それはそれで構いません。

 

質問の回答の書き方――私の場合書かせ方――なのですが、まずはリラックスして頂きます。
書く前に「アスクルvsコクヨ」など、競争を競争曲線でビジュアル化した「ケース」を解説しておきますとスムーズに書けます。

また、競争曲線を使ってグラフ化した事例をいくつか説明し、「あなたの会社でもこのような曲線を描いてみたいと思いませんか?」と聞くと、今のところ100%「描いてみたい」と答えます。少し反則のようですが、このノリが重要です。

 

私が質問事項を順番に読み上げ、気付いたことを行間に書いていただきます。
一つの質問にかける時間は1分で、時計を見ながら「10秒前」・・・・「ハイ次~」と次々に読み上げますので答える方は考えている時間がありません。
瞬間的に思いついたことが結構重要であったりするのです。
一通り読み上げましたら、5~10分程度のフォローの時間をとります。
グループで行う場合には、カンニングの時間もとります。答えが出そろいましたらそれを簡単な言葉で置き換えます。こ
れが競争資源です。

 

競争資源を抽出しましたら、次に競争相手を想定し、自社と競争相手の点数を直感的につけていきます。
点数は10点満点で、自社に有利→点数が高い、自社に不利点数が低い、となるようにします。
例えば「価格」では、価格が低い方が自社に有利ですので「価格優位性」とします。
点数は差が明確になるように若干オーバーにつけます。

競争資源 自社 他社
資本力 1 9
店の外観 2 8
駐車場スペース 4 8
価格優位性 4. 5
レジスピード 5 6
品揃え 7 4
接客態度 8 3
地方の特産物 9 4
配達 9 4

点数をつけ終わりましたら「自社の点数の低い方」から並べ替えます。
これをグラフにします。左側が自社の「弱み」の領域で、右側が自社の「強み」の領域です。この段階では単なる分析です。


このグラフに変異ベクトルをつけていきます。つまり、競争資源を頭の中で動かすのです。
弱みの領域では、主にどの競争資源を上げるのか(あるいは放置するのか)を定めます。

資本力 取りあえず放置
店の外観 改装と清掃
駐車場スペース レジのスピードを上げることにより車の回転をよくする(結果的に駐車場を拡張したのと同じ効果
価格優位性 競争相手の報復を受け価格競争となることを避けるため放置
レジスピード 社内競技会等の開催などにより上げる
品揃え 放置
接客態度 業界以外の接客業を模倣(例えばリッツ・カールトンなど複数)
地方の特産物 演出する
配達 演出する

強みの領域はあくまで経営者が思っている強みで、顧客に十分に伝わっていない可能性があります。顧客に伝わるように演出を考えます。
右の強みの領域で新兵器を開発したいところですが、競争の激しい業界では新兵器はなかなか思いつきません。
しかし、意識を集中すると、電車の中、散歩中など思わぬところでひらめくことがあります。

 

FAQ
●競争相手がわからない
→ 中小企業の特徴です。相手も競争を意識していません。この場合相手からも自社がステレスとなっています。

●競争資源がわからない
→ 競争資源には「見えない資産」があります。競争優位(不利)のほんとうの源泉は見えづらいという特徴があります。

●適当に点数をつけていいのか
→ OKです。比較に関してはゼロックスが開発したベンチマークがありますが、ゼロックスでは膨大な時間と費用がかかるといっています。しかし、マウスやウィンドウ(GUI環境)を2度見られただけで簡単にまねされてしまいました。開発したのはゼロックスですが、少し売れたのはマックです。たくさん売れたのはウィンドウズです。

●弱いところが本当に弱みか
→ いいえ違います。

●これで競争資源がすべてか
→ 重要なのは、出てきた競争資源ではなく、まだ出ていない競争資源の場合もあります。

●事業が2つ以上ある
→基本的に事業ごとに作成します。主要事業だけでも結構です