マンデンブロの会計学・・・売上と利益のギザギザを読む 2

ギザギザ

 

次の写真はハワイ島の海岸で撮った写真です。海岸に流れ出た溶岩も、夕日に浮かぶ雲も随分とギザギザしていいます。



「凸凹や揺らぎは理想的に滑らかな形からのずれというようなものではなく、むしろ、滑らかではないことこそが自然の法則なのだ、ということです。これは経済現象にもあてはまります。」とギザギザの大家ベノワ・B・マンデンブロが言っています(禁断の市場p1 溶岩や雲の一部を切り取って、拡大してもやはりギザギザしています。そのまた一部を切り取ってもギザギザしています。
このような事象をフラクタルといいます。自然界はフラクタルで溢れています。 「フラクタル」についてはウィキペディアで見てください。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%82%AF%E3%82%BF%E3%83%AB  77)

(注)マンデンブロは「フラクタル」をかなり広義に捉えていることに注意してください。

 

次のグラフはある会社の4年半にわたる月次変動をグラフ化したものです。
海に流れる溶岩や、背景の雲と同じように、かなりギザギザし、変動しているでしょう。
基礎データは私が作成しましたが、皆さんの会社でも当てはまる会社があるはずです。「私の会社とほぼ同じ」という経営者もいました。
年間の売上が40億程度の企業です。取引のボリュームがそこそこあり、一つ一つの取引が相対的に小さくなりますので、月次の変動は年間売上数億円といった小規模企業よりは平準化されているのですが、それでもかなりの変動です。
より規模の小さい企業では、一つ一つの取引が売上及び利益に大きな影響を及ぼしますので、振動の幅がさらに大きくなります。



ある経営者は自社の5年間の月次変動グラフを見て「まるで心電図のようですね」と言っていました。
このグラフは月次変動のグラフですが、このゆらぎは、微視的な変動と巨視的な変動との組み合わせで成り立っており、広い意味での「フラクタル」となります。月次変動だけではなく、日次変動、週次変動も揺らいでいます。
どのようにゆらいでいるのかを見極めるというのがテーマです。但し、見極めるといっても、完全に見極めるのは「不可能」ですのでご注意ください。風のゆらぎにしても、突風がいつ起こるか予測するのは「不可能」な場合があるということが証明されています。

 

数字で見ても形は見えてこない
グラフではなくグラフの元データを見てみましょう。このデータからゆらぎが読み取れるでしょうか?数字が変動しているのはわかりますが、変動を視覚的にみることは難しいと思います。
心電図や地震計は数字の推移ではなく、振幅として市直感的に理解できるようになっています。ヒトは数字の羅列を追いかけて、変動を理解できるようには進化していないようです。

売上高

1月

2月

3月

4月

5月

6月

7月

8 月

9月

10月

11月

12月

×1年

270

230

250

240

250

350

430

570

500

260

260

280

×2年

290

240

320

250

280

300

380

560

620

340

300

340

×3年

350

320

320

280

410

420

600

530

470

260

270

320

×4年

340

280

280

310

340

300

350

360

400

270

240

250

×5年

260

220

230

270

210

210

 

経常利益

 1月

 2月

 3月

 4月

 5月

 6月

 7月

 8月

 9月

10月

11月

12月

×1年

20

21

0

2

3

24

29

46

14

7

-11

-16

×2年

23

-7

-8

6

-12

4

-2

29

4

-12

-22

-7

×3年

-17

-18

-26

-12

-19

-44

3

5

-2

-11

-12

-10

×4年

-7

-9

-14

-14

-11

-21

-9

-4

-4

-3

1

-5

×5年

14

-1

-1

2

7

10

ヒトが数字を見るようになって数千年。一方、「波」は自然界に溢れていますので、数億年は見続けてきました。
数字で推移を示すより、グラフの方が圧倒的に印象に残るのです。

 

べき乗則
グラフを見て、時々大きな波があることに着目してください。私のクライアントにサーフィン歴推定40年超の経営者がいます(趣味が高じてサーフショップも経営していました)。彼曰く・・・・「(太平洋からの)波はですね、30分に1度くらい、とても大きな波が来るんですよ。岩場で遊ぶときは気を付けたほうがいいですよ・・・」
経済もセレクション・ネットワーク・システムの上位概念で「自生的に発生した秩序」に属する部類のシステムですのでゆらぎます。好況~不況~時々起る大恐慌・・・・時々起るとんでもないゆらぎは「べき乗則」的です。
べき乗則???聞いたことがないという方は・・・自然界では大きな事象は、まれに起こるのではなく、よく起こるということだと理解されて結構です。

 

季節変動を見る
推移の傾向を見る前に、季節変動を見てみます。
地球は(くるくるとコマのように自転しながら)太陽の周りを365日かけて公転しますので、セレクション・フローは地球の公転という自然の影響・・・つまり「季節変動」の影響をもろに受けます。正月や、盆暮、ゴールデンウィーク(・・・・曜日も月も)この公転の上に成り立っている慣習です。
季節変動を見るために×1年~×4年の売上を平均してグラフ化してみました。



ん・・・本当に利益が出ているのは8月だけ???
ここまで極端ではないにしても、このような季節変動は、何も特別なものではなく、スーパーや建設業、そして会計事務所などいろいろな業種に見られる特徴です。稲作などはその典型かもしれません。
企業活動も稲作同様に四季の影響、あるいは季節による慣習から逃れられない場合が多いのです。
この季節変動に「うまく対処」すると、大幅な利益改善につながります。
何気なく、あっさりと言っていますが、万一「うまく対処」できると、その効果は絶大です。

 

損益の傾向を見る
さて、先のグラフの「ゆらぎ」というか「ギザギザ」ですが、完全に不規則(ランダムウォーク)かというと長期的には、ある傾向を示します。ナイル川の氾濫の水位と同様、氾濫の水位の高低は一定期間高い傾向が続き、その後低い期間が一定期間続くという「傾向」を示すのです。
月次変動はゆらぎが激しすぎますので、これを見ているだけでは、傾向がつかめません。業種にもよりますが、季節変動の影響も受け、月次変動グラフはかなり揺らいでいます。
月次変動グラフの変動が激しいため、傾向を見るためにはこれを加工する必要があります。この季節変動の影響を均したのが12ヵ月移動累計です。かなり見やすくなったと思います。



なぜ、12か月の移動平均ではないのか?・・・毎月「12か月決算」を行うためです。
つまり、各月の売上と経常利益の「実力」は、その月のグラフの高低を見ればわかります。
・・・セレクション・フローの揺らぎが激しいと、12ヵ月移動累計でも、ジェットコースターのように変動します(私の経験ですと、流動的な証券会社、1件当たりの売上の影響が大きい中小の建設業が挙げられます)。マンデンブロは「コイン投げの場合には、過去の実現地は未来に影響を及ぼしません。しかし、市場の場合には、短期記憶や長期記憶の効果が無視できないのです」といっています(p257)。

 

もちろん企業の損益も過去の記憶の効果は無視できません。
損益計算書では、前年にどんなに赤字(あるいは黒字)でも、期が変わったとたんに全ての科目が0から始まります・・・そのように決められています。
ところが、赤字体質の会社は期初「損益計算書の全ての科目が0」でもやはり赤字体質であり、黒字体質の会社は期初から黒字体質です。12ヵ月移動累計は企業体質の推移そのものです。
台風の進路予測のようにも使用します。台風の進路予測が東経と南緯の度数で示されたら相当イライラしますね。天気予報でも「図」を使用しています。

 

よくある質問
Q どこの本に載っているのでしょうか?
A 私が考えましたので残念ながらどこの本にも書いていません。5年以上の月次推移をみるというのは、上場会社でも見たことがありません。

 

Q グラフ化するメリットは
A 改善の実行に結びつきやすいということです。実際に数十社で採用しましたが、目に見えた効果がありました(他のツールとも組み合わせていますが・・・)。 「10社集めて、5年累計の経常利益を10億円改善する」と、利益の改善額を宣言して「ビリオン・プロジェクト」なるものをいくつか立ち上げましたが、ほぼ全社に著しい改善が見られました。もちろんプロジェクトは成功で、解散しました。図形化・・・といってもここではグラフかですが、することのメリットはマンデンブロも指摘しています。

 

Q どうして5期分も必要なのでしょう?
A 変化を見るためです。経営分析は単年度、あるいは2~3年の静態的な分析が主流です。ところが人の感覚器官は一時点の状態よりも、変化や際に対して敏感に反応します(経済は感情で動く マッテオ・モッテルリーニ著 泉典子訳 紀伊國屋書店 2,008年4月 p135)。ある1期間の静態的分析よりも最低でも5年程度の変化を見る方が効果的なのです。

 

Q グラフをみるポイントは?
A 企業が、セレクション・ネットワーク・システム(SNSという映画があります)で生き残っていくためには、重要なポイントがあります。適正な利益という成果物がなければ存続できません。
この利益ですが、売上に比べ、コストという変動要因がもう一つ加わりますので、売上より激しく変動します。この利益が「赤字線」を一定期間下回るようですと、企業は確実に死滅します。消費カロリーの方が摂取カロリーを上回る生物が、確実に死を迎えるのと同様です。
つまり、少なくとも経常利益の線が0以上にするようにガンバルということです。

 

Q 12ヵ月累計グラフで経常利益が上昇していますが、このまま上昇し続けるものなのでしょうか?
A 上がったものは必ず下がります。
永続する企業は、売上、経常利益とも「高いところの水準」ではためく様にゆらいでいます。


Q 12ヵ月累計グラフでは売上が上がっているのに経常利益が下がっていますが?
A よくあることです。無理な成長戦略は却って利益を圧迫します。先のプロジェクトの何人かもこのグラフとそっくりな形です。

 

公認会計士の皆さんへ
在庫調整などで粉飾決算をしますと、期末と期初にグラフが歪みます。監査のツールとしてお使いください。
私は企業再生のツールとして使用しています。

 

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