1 マンダラチャート・・マンダラとは

日本で特に有名なのが金剛界曼荼羅と胎蔵曼荼羅(大悲胎蔵生曼荼羅)で、それぞれ「金剛頂経」「大日経」という真言密教の経典をもとに描かれています。この二つの曼荼羅を両界曼荼羅といい、金剛界曼荼羅は大日如来の智慧を、胎蔵曼荼羅は大日如来の慈悲を表しているといわれています。

経営マンダラで使用するのは、図の左、9つのマスから構成される金剛界曼荼羅です。経営マンダラとは、この金剛界曼荼羅の「構造」を利用して、経営課題を整理・共有し、問題解決の方策を探り、新しいアイデアを創発するためのツールです。

経営マンダラを考案したのは松村氏で、本来の名称は「マンダラチャート」です(これとほとんど同じものに今泉氏の「マンダラート」がありますが、元祖は「マンダラチャート」です)。
私も普段はマンダラチャートと呼んできますが、マンダラチャートは商標権登録されていますので、ここでは経営マンダラという呼ぶことにします。
ま、経営マンダラとはマンダラチャートを企業経営のために特化させたものと考えられても結構です。
マンダラチャーとの違いは・・・
マンダラチャートでは9分割のマンダラの各マスをさらに9分割した81分割のマンダラも使いますが、経営マンダラでは9分割のマンダラのみ使用します。
マンダラの中心は同じですが、順番が「6時」のマスから時計方向に回ること。これは今泉浩晃氏の「マンダラート」と同じです。
バランス・スコアカード(Balanced Scorecard)に合わせて順番を考える。
・・・程度です。
(マンダラチャートは素晴らしい発想方法ですので、内容はマンダラチャートの本でご確認ください)

私は大学時代「仏教青年会」にふらーっと入会し、真言密教を主に研究しました(ほとんど忘れていました)。
「青年会」なんて今時はやらない言葉ですが、この仏教青年会、創立は今から100年以上も前の明治19年(1886年)、「青年会」というのは創立当時はモダンだったのでしょう。
YMCAも、今ではこちらの方が名が通っていますが、明治13年に発足した当時は基督教「青年会」と呼ばれていたのですよ。
マンダラと出会ったのもそのころで、学生時代を思い出しながらマンダラについて解説します。

マンダラ(曼荼羅)とは
中国では昔も今も、文字と言えば漢字しかありませんので、外国の文献は全て漢字を使って訳され表記されます(・・・当然です)。
この漢訳のとき、棒球(baseball=野球)や汽車(Automobile=自動車)のように、元の発音は無視して意味だけを表す、つまり意訳するのが通常です。棒球も汽車も漢字を見ただけで何となく意味が分かります。
「ん?汽車が自動車ですって?それでは汽車は何というの?」
日本語の汽車は中国語では火車です。
ところが、中国語でもナイロン=尼龙(中国語ピンインní lóng)やYahoo!=雅虎(中国語ピンインyǎ hǔ)などのように音訳される場合があります。
ちなみに、この音訳が日本人にとってとても厄介です。「ハワイ」は「夏威夷(xià wēi yí)(シィャ ウェイ イ)」のように、地名なんかはほとんど音訳です。この「シャウェイ」ですが、聞いてみると何となく「ハワイ」っぽいのですが、中国人に「ハワイ」「ハワ~イ」「ハ~ワ~イ」と言っても全く通じません。ほとんどの外国の地名と、欧米人の人名は「通じない」と思ったほうが無難です。
中国語に訳された外来語の中には、意味を持った洒落た音訳もあります。世界一有名な炭酸飲料は「口可口楽」と訳されています。
日本人による最大の発明、カラオケは「卡拉OK」(読みもカラオケでok)と音訳されています。ローマ字が入っていますが、かなり例外です。

・・・今から千数百年前、仏教がインドから中国に伝来するとき、中国人はサンスクリット語の仏教の経典や仏教用語を、中国語につまり漢字に変換しました。
一部例外として「梵字」としてのサンスクリット文字も残りましたが、全て漢字です。これは今も昔もかわりません。
この時用いたのが、中国語(漢字)でそのまま意味が通じる意訳と、サンスクリット語の発音を漢字で表記するという音訳です。
意訳は文章を読めば意味が通じるのですが、音訳は元のサンスクリットの意味が分からなければそれが何を指すのかはわかりません。雅虎(漢字の意味は上品なトラ=発音はヤフー)がYahoo!を指すのと同じです。

日本人は経典を日本語に訳すなどということはせず、そのまま中国語のまま日本に持ち込みました。そして、仏教用語とともに、たくさんの――はるか遠く離れた古代インドのサンスクリット語が輸入されることになりました。
中にはすっかり日本に定着したサンスクリット語もあります。
・奇々怪々摩訶不思議の「魔訶」・・・マハー(maha)偉大な
・菩薩・・・ボーディサットヴァ(bodhisattva)
・南無阿弥陀仏の「南無」・・・ナモ(namo)帰依する
・卒塔婆・・・ストゥーパ(stupa)仏塔
・・・般若心経の般若波羅蜜多(はんにゃはらみた)も音訳ですし、胃腸薬の大師陀羅尼錠(だいしだらにじょう)の陀羅尼も音訳です。
かなり古い(1964年のCMのセリフ)ですが・・・「インド人もびっくり」ですね。

「曼荼羅」もサンスクリット語のマンダラ(mandala)の音訳ですので、漢字自体に意味はありません。曼荼羅の意味を知るには、曼荼羅という音がサンスクリット語で何を意味するのかを探らなければなりません。
曼荼(マンダ manda )は「神髄、本質」という意味であり、羅(ラ la)は「もつ」の意であることから、曼荼羅( mandala)で「本質をもつもの」を意味します。
(図解曼荼羅の味方 小峰彌彦著 大法輪閣 1997年7月 p28参照)

また、マンダラには形容詞で「円」「輪」という意味があり、これが語源であるとする説もあります。華厳経では輪円具足と意訳されています。
(曼荼羅とは何か 正木晃 NHKブックス 2007年8月 p20参照)

経営マンダラの不思議
経営マンダラは金剛界曼荼羅の構造によって、経営の本質を表現しようとするものです。たった9つのマスで表現できるかというと、できてしまうから不思議です。
人によっては9つのマスは、当初多すぎると感じるかもしれません。実際に3つ程度しか埋まっていない不完全な経営マンダラを持ってきて、「これ見てください」という経営者もいます。しかし、9マスすべて埋めなければ何か違和感があるのでしょうか、しばらくすると全て埋めてきます。

もう一つ、経営マンダラには「描いたことが知らず知らずの間に実行できてしまっている」という不思議な力があります。
私は年間2万本程度タバコを吸っていたのですが、最近、禁煙できてしまいました。5年ほど前に描いたマンダラに「禁酒・禁煙」と描いたことと無縁ではないように思えます。ちなみに、お酒の方も度が過ぎるほど好きでしたが、1年ちょっと前から全く飲まなくなっています。
偶然にテレビ(NHK)の取材を受け、行列のできる店に変身したレストランの4年前マンダラにテレビに出ると描かれていた、などということはよくあることです。経営マンダラに描きこんだほとんどのことが、後から見るとほとんど実現されてしまっている・・・経営マンダラを描いた人なら必ずと言っていいほど体験する「不思議」です。

補足 いろいろなマンダラ
日蓮宗でみられる「南無妙法蓮華経」と描かれている髭曼荼羅が有名ですが、このほかにも曼荼羅にはさまざまのものがあります。

写真は韓国・済州島の薬泉寺に奉納されていた砂で描かれたマンダラ。チベットの僧が描いたものなのでしょうか?