2 マンダラチャートの効果1・・・全体像を見る

1998年のこと、日本の従業員数たった4人の小さな会社が、中国最大の報道機関「新華社」と単独で衛星放送でのニュース配信の契約を締結してきました。新華社、正式名は新華通信社(中国語では新華通訊社)は日本の内閣に相当する国務院直属の報道機関です。
ちなみに、この小さな会社は江沢民が訪日するときにその会社に立ち寄ると朝日新聞にすっぱ抜かれた会社です。
ただし、配信契約を締結してきたといっても、報道の権利を取得しただけで、放送機材を購入するための資金が足りません。
この会社の社長が出資資金調達のために奔走するのですが、資金は3分の1ほど集まった時点で暗礁に乗り上げました。
1か月、2か月・・・・と時間は過ぎているのですが出資を得られず、社長一同半ばあきらめかけていました。

「いっそ稲森さん(京セラの稲森和夫会長)にでも出資を依頼してみたら」
と社長に提案してみました。
「雲の上の人でしょう」
・・・と社長・・・まさか私の提案が実現するとは思っていませんでした。
社長の知り合い何人かを介して、稲森氏を紹介していただける方=K氏に辿りつきました。K氏も大手家電メーカーの副社長を務めた日本有数の経営者です。
稲森会長だけではなく、当時飛ぶ鳥を落とす勢いのあったCSKの大川会長も紹介していただけるとのことです。そして何と実際に、稲森氏も大川氏も直接会って話を聞いてくれたではありませんか!!!

K氏に分厚い事業計画書を持って行ったところ
「紙一枚で描いてくれませんか A3の紙 あとは私が説明します」
・・・と分厚い事業計画書は却下・・・改めて紙一枚で事業内容の全体が展望できる事業計画書を作成しました。
ただ・・・当時の中国はまだ後進国で、急成長が始まるのはその後です。
京セラもセガも(中国に行くなどして)調査してくれたのですが、時期尚早ということで出資は結局流れてしまいました。
直接、あるいは証券会社を介してたくさんの企業に出資をお願いし、最後は日本を代表するような超一流の経営者にも会ってもダメでしたのなら、あきらめもつくというものです。
話が流れたことは残念でしたが、この時・・・
「超一流の経営者というのは紙一枚で視覚的に事業を捉えるものなのだなぁ」
と、つくづく感じたことは今でも覚えています。

先日も問題を抱えた若手経営者が相談に来ました。外では何度か会っている経営者ですが、私の事務所(皆さん道場と呼んでいます)に来るのは2度目。マンダラチャートはまだ描かせていません。
10分ほど話を聞いて・・・
「2時間話しても、たぶん解決策は出てきませんよ」
「何故でしょう」
「頭の中で問題点が堂々巡りしている状態で、問題点が整理されていませんから」
「確かに堂々巡りしています」
「一つの問題点について悩みだすとその問題点について心を奪われて、別の問題点について考えだすとそちらに心を奪われて・・・こうなると何から手を付けていいかわからなくなり、思考停止状態になっていますね」
「焦れば焦るほど何がなんだかよくわからなくなり、夜も寝られません」
日本人は不安遺伝子の保有率が世界一高く、精神安定ホルモン「セロトニン」が欠乏しやすいようです。不安が不安を呼び、不安のスパイラルに陥る。こうなると建設的ないいアイデアを出すなんて、生理学的に無理な話です。このスパイラルから抜け出し、脳を安心させるには問題の本質を見極める必要があります。
「『段取り八分』『急がば回れ』、頭の中を整理するために、まず全体像を整理しましょう」
「全体像を整理するって?」
「経営の全体像を『紙一枚』に整理するんです」

紙一枚に整理するというのは全体像をつかむために重要な作業です。
発想法で「マインドマップ」「フィッシュボーン」というのもありますが(あとで紹介します)、どちらも、つまるところ紙一枚で表現するということです。
(・・・と、書いているうちに、ふと「マインドマップ」は胎蔵曼荼羅に近いということに気が付きました)
バランス・スコアカードの「戦略マップ」も一枚の紙で表現するものです。

曼荼羅本来の意味に立ち返ってみると、曼荼羅の意味するところは「本質を有する」「円満具足」を表現するものでした。
自社の経営の本質が描かれており、完全ではないにしてもある程度包括的に描かれていれば、それはもう立派な「経営」曼荼羅です。

戦略、経営上の問題点、経営者として考えるべきこと、経営方針・・・何と表現してもいいのですが、経営上のある課題は単独で存在していることはむしろ稀で、課題のネットワークを形成しています。一つの課題を処理するためには『同時に複数の課題を考えなければなりません』。
経営者の頭が混乱している状態というのはというのは、対処すべき課題が複数あり、頭の中だけである特定の課題に心を奪われているため他の課題に頭が回らない、あるいは複数の課題が一度に浮かんできて、何から手を付けていいかわからない・・・ことが多いのです。
実際、経営に悩んでいる経営者の話をお聞きすると、課題があちこちに飛び、しかもその課題が関連性のないまま堂々巡りする・・・ことになります。
一枚の紙に「きれいに」整理すれば経営者の「経営観」を視覚化することができるのです。この効果は絶大・・・ということが実証できています。