1 戦争の理論と企業間競争(序)

企業間競争を統合的に見ると、戦略論における「学説」の「違い」が見えてきます。
見えてくるものは「学説」の「違い」だけではありません。他の系に属する競争、たとえば生物の「生存競争」や「戦争」との「違い」も見えてきます。
以前、経営者の集まりで、ある女性経営者に「経営学ではなぜそんなに戦争用語が出てくるのですか?」と聞かれたことがあります。とくに戦争用語は使った覚えはありませんでしたので、理由をお尋ねしましたら「『戦略』というのは戦争用語ではありませんか?」・・・・・・その通りです。
フム・・・確かに今日のビジネス書には戦争用語がいたるところに顔をだしています。戦争用語を一つも使っていない経営学書は「ほとんどない」といっても過言ではありません。中には「戦争」の基本法則を「企業間競争」にそのまま適用し、両者を混同しているものもあります。こうなりますと錯乱としか言いようがありません。「企業間競争」と「戦争」が同じではないことくらいは、戦争を体験していない方でもお分かりになると思うのですが、「違い」が見えていないのです。

そこで、ここでは「企業間競争」と「戦争」の違いについ見ていきます。この「企業間競争」と「戦争」の違いが見えてきますと、「大企業」と「中小企業」の競争の仕方の「違い」も見えてきます。
特に中小企業の企業環境と競争の特徴を理解する上で、戦争の理論は格好の教材となりますので、取り上げてみることにしました。

戦争の理論
戦略(strategy)は軍事用語で、その語源はギリシャ語の「将軍」を意味するstrategosに由来し、戦略ということばを一般的にさせたのは、プロイセンの軍人であり軍事研究家でもあるクラウゼヴィッツ(1780~1831)だとされています。
もともと軍事用語からきていますので、「経営戦略」というのは「戦争論」となじみやすいのは当然です。

南米のホンジェラスとエル・サルバドル、この両国は1970年に開催されるワールドカップの出場権をめぐってサッカーの試合をしていました。1969年のことです。第1回戦はホンジェラスで行われました。人々はエル・サルバドルチームの宿泊するホテルの前で、一晩中爆竹や車のクラクション、シュプレヒコールでわめきたてました。翌日、ホンジェラスは1-0で睡眠不足のエル・サルバドルを破りました。
1週間後、リターンマッチがエル・サルバドルで行われました。開催国側であるエル・サルバドルは前回の試合で受けた仕打ちの仕返しとして、ホンジェラスの国旗のかわりに「ぼろぼろのふきん」を掲揚しました。第2回戦は3-0でエル・サルバドルの勝ち。翌日、エル・サルバドルはホンジェラスを空爆。両国が戦争に突入しました。ちなみに、同じ軍服と同じ武器を持った軍隊が戦ったそうです・・・・
これが100時間続いた、史上最もバカバカしい戦争といわれる「サッカー戦争」です。(サッカー戦争 リシャルト・カプシチンスキ著 北代美和子訳 中央公論社 1993年8月 p169~200)
「サッカー戦争」(この戦争の裏には両国の難民問題などがありました)でみるようにサッカーでも戦争が始まります。戦争の原因、戦争がなぜ始まるかについてはさまざまな思惑が働いて、一概には言えないのですが、旧来の戦争は主に土地(とそこから得られる利権)をめぐる争いです。土地は増産されませんので、欲しいと思えば奪い合うしかありません。土地を占有したい人同士での直接的な殺し合いが始まります。競争相手に対する直接的な力の行使です。

戦争は基本的に領土をめぐる闘争で、企業間競争とは競争の本質が異なるのですが、「戦略」という言葉が戦争に由来しているため、戦略論の本には戦争用語が氾濫しています・・・分かりやすいからです。
そして、これがさらに飛躍しますと、戦争の理論で企業間競争の「本質」を説明しようとする学者やコンサルタントが出てきます。分かりやすいので無理もありません。しかし、企業間競争がときに「戦争と同じ」であっても戦争では決してありません。

戦争の理論を基礎にした経営コンサルタントの話
戦争の理論を基礎に構築された企業戦略論としては日本ではランチェスター戦略が有名ですが、このような理論は海外にもあるようです。米国のあるコンサルタントは、経営学書で次のような内容のことを書いています。数字を追うのが面倒な方は結論だけお読みください。戦国時代の農民のように、お弁当を持参して見物するのも結構です。

次のような銃撃戦を想定します。
・青組には兵士が27人いて、赤組には18人の兵士がいたとする。
・一回の一斉射撃で弾が当る確立は3分の1とする。
当初は、27:18で、青組は赤組に対して兵員で1.5倍有利であるに過ぎません。さて、銃撃戦の始まりです。

①最初の一斉射撃
最初の一斉射撃で、青組は27発撃つから9発命中します。白組は18発弾を撃ちますので6発命中します。
(このような、戦闘においては、先に撃たれたら銃を撃てないではないか?という、もっともな疑問を持たないことが約束事となっているようです)
最初の一斉射撃の結果、生き残ったのは、次のように青組は21人となり、赤組は9人となります。
青組 27人-6人 =21人
赤組 18人-9人 =9人
当初、青組は赤組の1.5倍の兵力だったのですが。なんと、最初の一斉射撃で2倍以上の兵力となるのです!!銃撃戦においては、兵士の数が多い方が圧倒的に有利です。
さて、最初の一斉射撃で、青組は21人生き残り、赤組は9人生き残りました。

この銃撃戦を図にしてみました。戦死した兵士は白丸で表現しています.



②第2回目の一斉射撃
次に、第2回目の一斉射撃です。赤組は21発ちますので7発当ります。赤組は9発撃ち3発当ります。先と同様に生き残りを計算してみます。
青組 21人-3人 =18人
白組 9人-7人 =2人
何と、たった2回の一斉射撃で、青組18人対赤組2人、青組の兵力は、赤組の9倍となりました。

③第3回目の一斉射撃
クライマックスは3回目の一斉射撃です。青組は18発撃つので6発当りますが、赤組は2人しか残っていませんので1発も命中せず全滅してしまします。
青組 18人-0人=18人
赤組  2人-2人= 0人・・・・全滅

ここで、戦死者の数について考えて欲しいと、戦争の理論に立つコンサルタントが言いますので、言われたとおりに戦死者の数を検証してみることにします。
青組の戦死者 当初27人-生存18人=戦死者9人
赤組の戦死者 当初18人-生存 0人=戦死者18人
言われたとおりに生存者を検証してみますと、なんと、優勢な青組は、劣勢な赤組の半分しかダメージを受けていません!!!
(マーケティング戦争 アル・ライズ ジャック・トラウト著 酒井泰介訳 株式会社翔泳社 2007年4月参照)

(この、銃撃戦を機関銃でやると兵士の2乗倍で圧倒的に青組の方が有利となります。)
確かに兵力で優勢に立つ青組の方が圧倒的に有利です。そして、戦争の理論にもとづくコンサルタントは、何の検証もなく、これをビジネスにあてはめます。小さな会社が大きな会社に勝てなかった事例をたくさん挙げ、この銃撃戦における兵員数の差による優位性を何の疑問もなく主張しています。実際に、大きな会社の方が有利なので、事例には事欠きません。
この銃撃戦ついての話はさらに続きがあります。この銃撃戦は、平地での銃撃戦です。敵が防御を固めていたらどうなるでしょうか?
「塑壕でうまく防備した敵や高所を制している敵に対し、正面攻撃を成功させるには、少なくとも3倍の兵力を有していなければならない」というような結論になります。

戦争の理論にもとづく比喩はかなり明快なで、かつ、説得力がありますので、一瞬、誰でも納得してしまいます。実際に、この銃撃戦を経営者の集まりで実演したところ、何と全ての経営者が納得してしまいました!!!
しかし、どこかおかしいのではないでしょか???・・・・・
どこがおかしいか検証してみる必要があります。
最初の青組27人、赤組18人という兵員数についての仮定は特に問題はなさそうです。単純に人数の問題ですので、27人の会社、18人の会社があっても自然です。
3発撃って1発当る、という確率に関する仮定も、ちょっと分かりづらいのですが、訪問販売などのようにアポイントに対する、ある一定範囲内の成約率の関係が認められるものもありますので、よしといたします。

しかし、最初の一撃で、死人がでるのでしょうか?
赤組を実際の会社に見立てると、朝18人が会社に来て、終業時間には9人に人数が減っていることになります。1日で9人戦死です。仕事をしていて殺されるのですから殉職といった方が良いかも知れません。3日目には全社員が殉職してしまいます。この理論に従えば、ビジネス街の東京の八重洲や大阪の船場などは、毎日、ビジネスマンの死体の山となります。
ビジネスの書物には戦争の理論が氾濫しています。戦争の理論の中にも、リーダーシップなど企業間競争に照らして導入できるものと、全く見当違いのものがあります。見当違いでも説得力がありますので注意が必要です。
しかし、このように従業員が毎日のように殉死する会社が求人広告を出したらどうなるでしょうか?誰も応募がないに決まっています。実際には存在し得ないのですが、本屋に並ぶ経営の書物に「当然」のように書いてあります。
戦争と企業間競争を比較しますと、企業間競争が選択の理論に支配されているという、競争の本質が明確に見えてきますのでしばらくお付き合いください。

赤組の会社も、青組の会社も、社員の解雇、定年退職、転職、会社の倒産がない限り、10年経っても人数はそのままです。
戦争の理論は、経営戦略でも使えるものも多いかもしれませんが、この「兵士の数に関する理論」については、理論の根本が間違っているのですから、これから演繹される理論は全て間違えです(しかし、銃撃戦をわざわざ引き合いに出さなくても、ビジネス上は大会社の方が通常は有利です)。

そして、「サラリーマンが戦死する」という、およそ現実とはかけ離れた「大前提」そのものが、この種の理論の致命傷となります。
サラリーマンが、軍服を着て、自動小銃を肩にかけて出勤しているのを見たことがあるでしょうか??

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