4-3 ベンチマークの正しい調理法

まず、ロバート・C・キャンプのいうベンチマークの作業手順からみてみましょう。キャンプの作業手順はかなり長く複雑となっています。


(ベンチマーキング ロバート・C・キャンプ著 田尻正滋 PHP研究所 1995年10月p29)

キャンプの作業手順は形式的に制度化され冗長にすぎるきらいもあります。
ベンチマークの基本的な手順は、競争曲線の弱みの領域の対処の仕方と、基本的に同じです。

競争資源を見極める(どのような資源につていベンチマークするのか)

競争相手を決める(どの企業をベンチマークするのか)

競争相手に応じて競争資源を動かす(どのように競争資源を動かすのか)

競争曲線の作成すると(弱みの領域では)ベンチマークが自動的に実行できる仕組みになっています。
この点が通常のSWOT分析と大きく異なるところです。
(また、競争曲線はマルチプレックスなアプローチに従っていますので、ベンチマークのほかに、自社独自でのカイゼン、他社との差別化も同時に考慮することができます)

 

さて、キャンプは10ステップにものぼる作業手順を示しているのですが、この作業手順に全て忠実に従う必要性はさほどないように感じられます。
キャンプはゼロックスのベンチマークを指揮したので、この作業手順はゼロックスという超巨大企業の作業手順です。
企業の規模に応じて作業手順を簡略化しても一向に差し支えありません。

差し支えないと考えるのには理由があります。
キャンプは「ベンチマーキングは非常に金がかかる」と言っています(ベンチマーキング ロバート・C・キャンプ著 田尻正滋 PHP研究所1995年10月p94)。

作業手順を簡略化しても差し支えないという根拠はもう一つあります。
アイコンやマウスを開発したのはゼロックスですがアップルの創設者スティーブ・ジョブスはこれをたったの2度見ただけでマッキントッシュを開発してしまったからです。

さて競争曲線でベンチマークを行う際の必要最低限の手順を考えてみましょう。
キャンプのいうベンチマークの手順とステップ3までは同じです。
ステップ4から8までは「いろいろ検討して」ステップ9の実行に移します。
「いろいろ検討して」とは自社の状況に合わせて省略できるものは省略しても構わないという意味です。
重要なのはベンチマークという考え方であり、作業手順などではないからです。
ベンチマークに大金をつぎ込むことはありません。
ベンチマークを発見したのが日本人というのならば、日本人はほとんどカネをかけずにベンチマークを行ってきました。
日本の上場会社を監査してきましたが、日本企業はそれとはまったく意識せずに(従って正式な手続きなど踏まずに)ベンチマークを行ってきたのです。

さて、競争曲線によるベンチマークの手順です。
まず、ベンチマークする競争資源を見極めます。
図の例ではベンチマークする競争資源はサイトユーザビリティです。
次にベンチマークする相手を決めます。
このとき気をつけなければならないのはベンチマークする相手は直接の競争相手とは限らないということです。
業界の枠を越えて、異業種までも視野に置いた方が競争相手に勝てる可能性が高くなります。また、ベンチマークする相手は1社とは限りません。
複数のサイトをベンチマークしても差し支えないのです。むしろそのほうがよいでしょう。

この例でベンチマークを使うのはサイトユーザビリティだけです。
立地はそのままですし、問い合わせスピードは自社努力による改善です。
新商品発見力と地方の特産物で競争優位を築いているのでさらに他社にない特産品の開発で差別化を図ります。

このように競争資源に応じて変異ベクトルを採択すると、ひとつの競争曲線上にベンチマークと差別化が同居することもできるのです。
ベンチマークを批判する研究者は多いのですが、これらの方々の予想に反してベンチマークと差別化は同時に採用できる、つまり、競争曲線を通じて統合することができるのです。

以下に変異ベクトルを示しておきます。学者やコンサルタントはこの変異ベクトルのある特定のベクトルに重点をおいて戦略論を構築します。
つまりベクトルのトレードオフを考えます。
企業家はの思考は、この変異ベクトルをいくつか組み合わせたものなので、(理論上)相互に矛盾すると考えられている戦略をマルチプレックス(多重的)に使用したものになります。
組み合わせ方は千差万別となり、これが戦略の多様性を生みます。