2-4 経営戦略論の統合・・・ポジショニング・アプローチ

「(構造)不況業種」という言葉があるように、業界によって利益率が違うというのは経営者の普通の感覚です。
この普通の感覚を経営戦略の理論にまとめ上げたのが、マイケル・E・ポーターです。
ポーターの理論はその後、他の理論と区別するためにポジショニング・アプローチと呼ばれるようになりました。

ポジショニング・アプローチを一言でいうならば、どの「業界(ネットワーク)」を選択するか、あるいは属しているか。
「企業の属する業界(ネットワーク)」のおかれている環境や業界の特性はどのようなものか。
「業界(ネットワーク)」におけるおける企業の地位などの違いによる利益の相違などに注目して経営戦略論としてまとめたものです。
業界の構造面に着目していますので、単に「構造論」と呼ばれることもあります。

クリーニング店でいうならば(この店は既にクリーニング業界を選択していますね)、属するクリーニング業界の属性、その店のクリーニング業界における地位をいいます。
・・・確かにこれらの構造的側面の違いによってクリーニング店の利益が異なるのは確かでしょう。

 

・マイケル・E・ポーターの偉業
権威の不在が戦略論の混乱に油を注いでいるようです。
少し前までは戦略論の権威がいて、その権威には少なくとも公然とは逆らえないという空気がありました。
その権威とは、「競争戦略(Competitive Strategy)」という言葉の生みの親、ハーバード大学大学院教授のマイケル・E・ポーターです。
競争戦略という言葉は、戦略論では一般的に使われており、現在では企業戦略の代名詞にもなっていますが、この競争戦略というのは、ポーターが1980年代に著した「Competitive Strategy(邦題:競争の戦略)」の題名がそのまま戦略論に定着したものです。
1980年代にMIT(マサチューセッツ工科大学)のビジネススクールに留学した私の友人は自らを「ポータリアン」と称しているほどです。
経済学の分野ではケインズの学説を支持する人々をケインジアンというのですが、経営学の分野で人の名前の後に「-ian」がついたのはポーターくらいでしょう。
さて、この戦略論の権威、ポーター教授が提唱したのがポジショニング・アプローチです。
経済学の理論に従えば、完全競争のもとでは超過利潤はゼロになります。
ある企業の利益率が相当高いとします。つまり超過利潤を得ている企業のある状態です。
企業家の目にはこの事業そのものが魅力的と映りますので、このような美味しそうな事業を放っておくわけがありません。次々と企業が参入し、この参入は超過利潤がゼロ、最終的には儲かる会社がなくなるまで続くというものです。
ところが実際にはこのようになっていません。実際には、超過利潤を得ている企業がたくさん存在するのですから。
この問いに対して、2つの答えがあります。
・その企業に独自の優れた経営資源がある・・・「内」の「要因」に焦点を当てる。
・産業構造上儲かる仕組みになっている・・・「外」の「要因」に焦点を当てる。

ポジショニング・アプローチは、高い利益率の原因を「外」の「要因」つまり、外部環境の構造的な要因に焦点を当てて分析しようとするものです。

分析単位は各企業の主戦場である各業界=産業を基本となる単位として分析のための枠組みを考えます。
つまり、産業の構造によって企業の行動が自ずと決まり、その結果として企業の収益性や利益率が決まってくるというものです。この図式はS-C-Pモデルと呼ばれています。

産業構造(Structure)

企業行動(Conduct)

企業の成果、業績(Performance)

 

このS-C-Pモデルは、もともとは経済学の産業組織論で考えられていたもので、経営学ではこの基本的な枠組みをひっくり返す形で考えられています。
アメリカの反トラスト法や日本の独占禁止法をみてもわかりますように、産業組織論では産業の収益性が高いことは解消されるべきとしているのに対し、経営戦略論ではむしろ好ましい状態と考えられている点にあります。
S-C-Pモデルをそのまま当てはめると、企業の業績に最も影響を与えるのは、企業の中身ではなく、産業構造そのものだということになります。
このように企業外部の産業的要因が重要であると考えると、経営戦略上は「儲かりそうな」産業を探したり、あるいは現時点での事業領域を「儲かる」構造にすることにある、ということになります。

 

・ファイブ・フォース
ポジショニング・アプローチを代表するポーターは、一つの業界内の競争の状況は、代替品、新規参入、業界内の競争と顧客及び供給業者の競争力の5つの競争要因(ファイブ・フォース)よって決定されるとしています。
そして、戦略担当者の役割は、このような競争要因との関連で、自社に有利なポジションを見つけたり、自ら創造したりすることを強調しています。
ポーターはこのファイブ・フォースの関連を図で説明しています。このファイブ・フォースはセレクション・ネットワーク・システムの構造的な側面を説明するものです。
青島・加藤教授の言葉を借りれば(企業の)「外」の要因です。
セレクション・ネットワーク・システムを変形することによりファイブ・フォースを表すことができます。

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ポーターのファイブ・フォースを90度左回りに回転させ、セレクション・システムを変形すると、ファイブ・フォースをネットワークとして表すことができましたでしょう。

このように各アプローチをセレクション・ネットワークに、次々と関連づけていきます。
すると、各アプローチがセレクション・ネットワークの異なる局面を説明しているということがわかります。

全体と関連図けられた個別理論は対立しないということは
「2-3 戦略論の統合・・・統合の方法」
で述べました。