模倣“も”素晴らしい 3 競争地位と模倣 同質化戦略を中心として

中小企業の経営者を対象にした模倣戦略の入門編として書いています。
模倣戦略を理解する上で、コトラーの競争地位戦略(模倣に関する部分)を見た方が理解しやすいのでは?と思います。

弱いものが強いものを模倣するというのが、私たちが普通に理解している模倣の構図です。
ここで特筆したいのは、通常の理解とは異なって、強い者も模倣するということです。
中小企業の経営者は「模倣される」ということに対してノーガードです。
全ての業種に当てはまる訳ではありませんが、大企業が中小企業というより零細企業を模倣してくることもあるのです。

業界における競争地位の違いによって戦略は異なります。コトラーはマーケットシェアの観点から企業を
・マーケット・リーダー
・マーケット・チャレンジャー
・マーケット・ニッチャー
・マーケット・フォロワー
の4つに分類して、競争地位に応じたそれぞれの戦略目標を説明しています。
一般的には「コトラーの競争地位戦略」とよばれているものです。
ここでは競争地位戦略を「模倣」に焦点を当てて説明します。

マーケット・リーダーによる同質化
「え!リーダーが模倣するの?」
私が同質化の話を最初に聞いたとき、このように思ったのを記憶しています。
先生が生徒のマネはしませんし、親が子のマネはしませんし、親方が弟子のマネはしません。
模倣というのは弱いものが行うもので、業界一番のリーダーは模倣しないという固定観念が、私にはありましたので、これは意外でした。
たぶん皆さんも同様に思われるでしょう・・・業界一のリーダーも模倣するのです。
ただ、リーダーが模倣すると「模倣」とは言わずに「同質化」と言います。
「同質化?・・・聞いたことがない」
という方がほとんどですが、要するに、模倣です。

この点、日本にはこれを説明するのに格好の事例があります。
日本の家電業界トップの「松下」(現パナソニックの昔の略称)はその昔「まねした」と呼ばれていました。
この同質化の説明を聞きますと、どうして「まねした」戦略が業界トップの戦略であるか「なるほど」と理解できます。

業界トップをマーケット・リーダーと呼ぶのですが、業界2位あるいは3位の地位にあり、業界トップを狙う意思がある企業を「マーケット・チャレンジャー」といいます。
マーケット・チャレンジャーはリーダーを追い抜こうとするのですが、正面攻撃で追い抜くのは困難ですので、奇襲をかけます。
つまり、従来にないような差別化によってマーケット・リーダーを攻撃します。
リーダーはチャレンジャーの差別化を模倣=「同質化」することによって、チャレンジャーの差別化を無効にします。

無効化できなければどうなるかといいますと・・・チャレンジャーがリーダーになることがあります。
アサヒビールは「スーパードライ」でリーダーのキリンビールに戦いを挑みました。キリンも「キリンドライ」で同質化しようとしましたが、手が届かず業界トップの座を明け渡してしまいました。
ビールの場合、今では、キリンとアサヒがデッドヒートを繰り広げどちらがリーダーでどちらがチャレンジャーだかわからなくなっています。

ビール市場のシェア

キリン
アサヒ
1985年
61.0%
9.6%
2011年
 33.3%  35.4%

 

 

 

イオンサプライ系の飲料では、大塚製薬の「ポカリスエット」(1980年4月発売)に対する、コカコーラの「アクエリアス」(1983年4月発売)が有名です。

発汗によって失われた水分とミネラルを補給するという“効能”も、味も、デザインも似せています。
「ポカリスエットです」と言って、アクエリアスを出しても、まず気づく人はいないでしょう。違いが分かるという方も、スピードアスリート(ダイドー)、キリンラブズスポーツ(キリン)を加えて“ポカリスエット”と“アクエリアス”を「飲み分けられか」と聞くと、「まず無理」という答えが返ってきます。

コカコーラの強力なベンダー(自動販売機)網に載せて販売するアクエリアスにまねされたポカリスエットですら、苦戦しているかと思いきやそうでもなさそうです。
競争ができることによって、イオンサプライ系の飲料の市場が広がったからでしょう。

中小企業の経営者の方は「リーダーとチャレンジャーの話なんて関係ない」と思われるでしょう?
ところが私の経験では大アリな場合があります。
特に小売業で、地方で小さな店舗を営んでいる方、小店舗だから安心と考えるのは早計です。近くの大資本の店舗が偵察に来て、陳列の仕方から品目、価格、特売日などなどを合わせてくるということもあります。

スーパー(3店舗経営)のある社長が
「あの会社(連結売上6兆円)がうちのマネしてど~すんですかね~」
と嘆いていました。

また、「この新製品、大手家電メーカーが見学に来るんですよ(凄いでしょ)」と自慢していた中小企業の経営者・・・しばらくして特許を迂回されて倒産してしまいました。

そこで、ある小企業(当時従業員3人程度)の社長が講演をたのまれまれたときのことです。
出席者は一部上場会社のそうそうたるメンバー。 講演で配布するレジュメを見ますと、その会社の高収益率のスキームが書かれて、とても価値の高い、おいしいレジュメになっています。「事業の根幹については一切触れないこと」
と釘を刺しておきました。
後日・・・「何も話さないいい講演ができました」との報告を受けました。
気を付けるに越したことはありません。

 

リサーチのうまいリーダーはフォロアーも同質化してきますので、注意が必要なのです。
特に小売りでは、1店舗しか経営しておらず、業界全体としてはフォロアー(しかも超フォロアー)でも、その地域ではチャレンジャーである場合があるのです。

再度、注意の提起
一般的には、強者は弱者を模倣しないと考えがちですが、この考えは誤りです。強い者の模倣は怖いですので、くれぐれも気を付けて下さい。

マーケット・フォロアーの模倣
模倣というよりコピーと言ったほうがいいかもしれません。
弱者が強者を模倣するのですから、模倣といえば普通こちらのタイプでしょう。
かつての日本が先進国の文明・文化に学んだのも、生徒が先生のマネをするのも、弟子が師匠のマネをするのも、タイプ的にはこちらのタイプに属します。

模倣者は独自で開発するより、低コスト&短期間で制度、技術、技能等を習得することができます。
先進国が後進国の、先生が生徒のマネをしませんよね・・・普通は・・・。
模倣というのは劣ったものが優れたもののマネをするものと相場が決まっています。
リーダーが堂々と模倣すると「同質化」なのに、フォロアーがマネすると「そりゃコピーだよ」とさげすまれた様な言い方をされてしまいます。ちょっと不公平ですね?

ですので、経営者に面と向かって
「模倣した(いる)」
というと、自尊心を傷つけられたような気がしますでしょう。

実際、模倣を取り扱った経営戦略の本には「明らかに模倣している場合にも、模倣していることを認めない」というような記載があります。模倣戦略に対する後ろめたいようなマイナスの先入観を取り除くための配慮でしょう。
リーダーも模倣するのですから気にしないことですね。

さて、教科書的にはフォロアーはとりあえずリーダーを模倣します。
フォロアーの模倣には開発費の節約のほか、マーケティング費用の節約という側面もあります。

スーパーマーケットの乳酸飲料のコーナーに行ってみるといいでしょう。よく目にするブランド製品と似たようなデザインをした無名ブランド(そのスーパーのプライベートブランを含む)の製品を見つけることができます。

フォロアーはチャレンジャーも模倣します。
チャレンジャーの差別化にはリーダーが模倣しづらいものもあります。模倣することがリーダーのそれまで成功を支えてきた方針・方策と矛盾してしまうのです。
チャレンジャーのプラスが「アスクル」というカタログ販売を始めたとき、リーダーのコクヨはなかなかカタログ販売に踏み切れませんでした。カタログ販売という直販はコクヨの問屋→店舗販売と矛盾するのです。
コクヨの同質化は大幅に遅れました。コクヨは店頭販売か通信販売というジレンマに陥り、「カウネット」の立ち上げに遅れたのです。
この点、フォロアーである大塚商会にこのようなジレンマはありません。もともと店頭販売に弱いのですから、コクヨのように業界のしがらみにとらわれることなく、速やかに「たのめーる」を立ち上げ、プラスに追随しています。

 

中小企業の競争地位と模倣戦略
コトラーの競争地位戦略は寡占状態にある業界を前提としています。これは何もコトラーだけに限らず、アメリカの経営学全般について言えることです。
日本でいえば自動車や家電、ビールなど、大企業が存在する業界です。
このような業界ではリーダー、チャレンジャー、ニッチャー、フォロワーと、コトラーの言うとおり競争的地位に応じた役者(登場人物)がそろっています。

ところが、中小企業の属する業界にはリーダーとなる大企業が存在しないこともあります。
「規模の利益」が働かない、つまり大きいことが必ずしも有利ではない業界もあり、このような業界では「多数乱戦」となります。
例えば私の属する会計関係の業界。
会計監査業務の方は国の方針でリーダー的な大監査法人が存在します。3つの大監査法人が顧客数の70%を保有するのですから寡占状態といっていいでしょう。
ところが、税理士業務の方では寡占化は進んでいません。
町の税理士さんが主役です。

 

フォロアー同士でも模倣はできる
中小企業の競争地位はフォロアーかニッチャーでしょう。
コトラーの理論では、フォロアーはリーダーやチャレンジャーの模倣をするのですが、多数乱戦の場合フォロアーは誰を模倣していいのか分からなくなってしまいます。
・・・しかし、よくよく周りを見ると、フォロアーがフォロアーを模倣することができるのです。
しかも、模倣されている方も気が付きません。
複数の会社を模倣して、模倣したものを合成すると、模倣先よりも良いものができたりします。
中小企業が中小企業の模倣をする・・・これが中小企業の模倣戦略です。